就労移行支援事業所では、パソコン訓練や軽作業、ビジネスマナー、コミュニケーション訓練など、就職に向けてさまざまな訓練を行います。
訓練を続けていると、「これだけできるようになれば、就職しても大丈夫」と思う一方で、「実際の職場でも同じようにできるだろうか」と不安になることもあるでしょう。
ここで知っておいてほしいのが、「訓練と実務は同じではない」ということです。
だからといって、訓練が役に立たないわけではありません。むしろ訓練は、実際に働くための「土台をつくる期間」と考えるとよいでしょう。
訓練と実務は何が違うの?
就労移行支援で行う訓練と、会社に入ってから行う実務には、いくつか大きな違いがあります。
① 実務には「相手」がいる
訓練では、自分のペースで課題に取り組めることがあります。
しかし仕事では、自分の作業の先に上司や同僚、お客様などがいます。
たとえばExcelの資格試験対策として、訓練では「正しく完成させること」が主な目的になります。
実務では、それに加えて「いつまでに必要なのか」「誰が使うのか」「どのような形式が分かりやすいのか」といったことも考える必要があります。
仕事では「できるか」だけでなく、「相手が必要としているものを提供できるか」が大切になります。
② 実務では時間を意識する必要がある
訓練では、間違えないように時間をかけて取り組むことができます。
もちろん実際の仕事でも正確さは大切です。しかし、仕事には締め切りがあります。
100点になるまで何時間もかけるより、求められている水準を確認し、決められた時間までに終わらせることが必要な場合もあります。
最初から速くできる必要はありません。
まずは正確に行い、慣れてきたら少しずつスピードを意識していきましょう。
③ 分からないことを質問する力が大切
仕事を始めたばかりの頃は、分からないことがあって当然です。
大切なのは、分からないまま自己判断で進めてしまわないことです。
「ここまでは分かりましたが、この部分が分かりません」
「AとBのどちらを優先すればよいでしょうか」
このように、自分が何に困っているのかを整理して質問する力は、実務ではとても重要です。
就労移行支援を利用している間から、分からないことを支援員に質問する練習をしておくと、就職後にも役立ちます。
④ 実務では予定外のことも起こる
訓練では、ある程度決められたスケジュールに沿って進めることができます。
しかし職場では、「この仕事を先にお願いします」「今日中に対応できますか?」など、予定していなかった仕事が入ることがあります。
そんなとき、自分だけで何とかしようとすると混乱してしまうことがあります。
「今、Aの仕事をしています。新しい仕事とどちらを優先すればよいでしょうか」と上司に確認すれば大丈夫です。
仕事ができる人とは、何でも一人で判断できる人ではありません。必要なときに確認や相談ができることも、大切な仕事の力です。
訓練中に意識しておきたいこと
では、就職に備えて訓練中から何を意識すればよいのでしょうか。
- 時間を意識して課題に取り組む
- 分からないことを質問する
- 指示をメモする
- 作業が終わったら報告する
- ミスをしたら原因と対策を考える
- 複数の作業が重なったら優先順位を確認する
- 疲れたときの自分のサインを知っておく
- 困ったときに相談する練習をする
こうしたことは、ExcelやWordの資格のように点数では表しにくいものです。
しかし実際に働き始めると、こうした「仕事の進め方」がとても重要になります。
訓練で100点を目指さなくても大丈夫
就職する前に「もっとパソコンができるようにならないと」「完璧に報連相ができないと」と考えてしまう人もいるかもしれません。
しかし、就職して初めて経験することもたくさんあります。
会社によって仕事の進め方も違いますし、使うシステムやルールも違います。就職前にすべてを身につけておくことはできません。
大切なのは、「何でもできる状態で就職すること」ではなく、「分からないことを確認しながら、一つずつ覚えていける状態で就職すること」です。
訓練での失敗は、むしろ大切な経験
訓練中にミスをすると、落ち込んでしまうこともあるでしょう。
でも、訓練中だからこそ失敗できるとも考えられます。
「指示を聞いただけでは忘れてしまった」のであれば、次からメモを取る。
「作業が重なると混乱した」のであれば、優先順位を確認する。
「長時間集中すると疲れてミスが増えた」のであれば、適切な休憩の取り方を考える。
失敗したこと自体よりも、「次はどうすれば同じ失敗を減らせるか」を考えることが大切です。
訓練はゴールではなく、働くための準備期間
就労移行支援の訓練と実際の仕事は違います。
だからこそ、訓練ですべてを完璧にする必要はありません。
パソコンスキルを身につけることも大切ですが、それと同じくらい、質問すること、相談すること、メモを取ること、自分の体調を把握すること、失敗したときに対策を考えることも大切です。
そして就職後も、仕事をしながら少しずつ覚えていけばよいのです。
訓練で身につけたものは、完成された「仕事の力」ではなく、これから仕事を覚えていくための土台です。
今できないことがあるからといって、就職できないわけではありません。
「できないことをなくす」だけではなく、「分からないときにどうするか」「困ったときにどうするか」を身につける。
それも、就労移行支援で行う大切な就職準備の一つです。


